
人間と自然のリズム。|アーティスト 髙山瑞さん
こんにちは。BASE FOOD note編集部です。
ベースフードではアート・芸能・ファッションシーンで活躍するクリエイターやデザイナー、アーティストの“ベースアップ”をサポートする「BASE UP CULTURE PROJECT」を展開しています。今回は同プロジェクトにてサプライヤーサポートをしているアーティスト 髙山瑞さんにインタビュー。アート活動のパフォーマンスを向上させるために意識していることや秘訣について、「運動・食・睡眠」の3つの視点からお話を伺いました。

混沌としたものが、美しいものへ。

編集部:
髙山さんが美術・アートに興味を持たれたきっかけをお話いただけますか。
髙山さん:
子どものころから絵を描くことが大好きで、誰よりもスケッチブックをたくさん使って描いていたのを覚えています。小学生の時には友だちと漫画を合作したり、授業のノートをきれいに書いたりということも好きでしたし、とにかく描く(書く)ことに興味がありましたね。
うちは3世帯で合計10人という大人数で暮らしていて、私が一番年下だったんです。ですから物心着いた時には、すでに家に何でも揃っていました。使いたいと思った時には、クレヨン、ペン、絵の具などの画材などは何でもすぐに手に取ることができたので、絵を描くことへのハードルが低かったのかもしれませんね。
それと、祖母の影響は大きいと思います。祖母は自身でも小説を書いたり、俳句を作ったりと、ものづくり に対して素養のある人でした。他にも民藝が好きで、拘りのある日用品や画集もたくさん持っていました。そんな祖母のセンスの良さを子どもながらに肌で感じていて、いいなあと思っていました。また、私の父も金属加工をしてアクセサリーを作っていたりと、「作る」風景がいつも周りにあったので、その延長で自分も何か描いてみよう、作ってみよう、と自然に思えたのかもしれません。

編集部:
なるほど、幼少期からすぐ近くに創作の環境があったんですね。本格的に美術を専攻しようと思ったのはいつ頃ですか?
髙山さん:
中学生の時に、「そんなに絵が好きなら美術の専攻がある高校に行ったら?」と母がアドバイスをくれました。その頃から、美大へ進もうかなと考え始めたのですが、まだ何を専攻するかまでは決めていませんでした。とりあえず母のアドバイス通り、美術の専攻がある高校に進学しました。高校の授業では美術の全てのジャンルに触れることができて、デッサンはもちろん、油絵、日本画、彫刻、デザイン、映像など一通り学んで、そこから自分に合うものを専攻できたんです。
編集部:
彫刻との出会いは高校の授業だったんですね。なにか印象に残っている出来事はありますか?
髙山さん:
粘土で首像(人の頭部)を作る授業があったのですが、当時実は私は粘土が嫌いでした。みんなが手でぐちゃぐちゃこねている粘土が、なんとなく混沌とした汚いものに思えていたんですよね。でも、その時にその粘土から作った首像がまったく違うものに見えて。同じ素材であるはずのものが、手を加えることで”美しいもの”にも変化するという可能性がとても面白く感じられました。2次元の絵にはない、立体として物を見る感覚、回り込みや奥行きがあることもとても新鮮でした。これが彫刻の面白さなのかなと感じたんです。
木の中にある“何か”を。

編集部:
現在のような「木」を使用した制作スタイルはいつ頃から定まっていったのですか?大学時代ですか?
髙山さん:
そうですね、大学の時です。いろいろな素材に触れていく中で、一番しっくりきたのが木でした。「自分が表現したいものができる素材としての木」というよりは、木の感触そのもの、木の存在そのものに魅力を感じました。
「木という材料で何かを作り出す」というより、「内部が見えない木という素材の中にすでにある“何か”を見たい」という感覚があるんです。作る前にはっきりとした彫るべき形を描いているわけではなくて、彫る過程で出てきたものに対して「こう彫ったらこう見えるんだ」というような偶然性を面白がっているところがあります。木は彫っていくと木目が毎回変わります。一刀入れるごとに木目が離れたりつながったり。そういった偶然から生まれるものがとても面白い。それが木という素材の魅力ですね。

編集部:
木の中から“何か”を彫り出す、その偶然性が作品になるというのはとても面白いですね。木の種類は何を基準に選ばれていますか?
髙山さん:
作品を作る時によく使うのはクスノキです。素材として彫りやすいということも選ぶ基準になりますが、それよりも節が多かったり、反りやねじれが多かったりと、個性が主張してくる木に魅かれています。真っ直ぐできれいな木よりも、頑固な性格を感じられるような木が好きですね。「俺はこっちに曲がって伸びるぞ」というような、意思のある木に特に魅力を感じます。そのような木は存在している時点でもう既に完成されているので、私がさらに彫る意味ってあるのかな?と思うことがあるくらいです。素材を見つめているだけで面白く、なかなか彫り始められないこともありますね。
編集部:
木と対話しているような感じですね。
髙山さん:
対話と言っていいのかわからないのですが、木から言語化できない“何か”を感じ取る、それを作品としてかたちづくるという感覚はあります。その一方で、そういった感覚的な部分を冷静に分析して言語化したいという気持ちもあるので、その両方を行ったり来たりしながら作品を生み出していくのが良いのかなと思っています。
彫刻は体力勝負。

編集部:
木を切ったり、彫ったりという作業には体力を使うと思いますが、健康面で気を付けていらっしゃることはありますか。
髙山さん:
彫刻はかなり体力勝負なところがありますから、体調管理には気をつけています。朝は必ず小松菜、バナナ、ヨーグルト、オートミール、ハチミツ、豆乳、ちょっとだけレモンを入れたスムージーを作って飲みます。これを飲めば1日健康!と信じて続けています。お昼はさっと食べるもの多いです。時間もそこまでかけれないので、カレー、うどん、ラーメンなど一品で済むものですね。
制作する上で食事による体調管理は欠かせません。特に締め切りのあるお仕事をいただいたり、個展の搬入日がこの日と決まっていたりする時には、皆さんにも迷惑をかけないように体調管理をしっかりしています。アトリエには木の乾燥を防ぐ意味もあってエアコンを設置していないのですが、夏は暑くて冬は寒いので、食事で体調を整えるようにしています。夏にはきゅうりや茄子などの体を冷やすものを意識して摂ったり、冬には温かいスープを飲んで、体の中と手も一緒に温めるなどの工夫をしています。
編集部:
睡眠や運動面ではいかがですか?
髙山さん:
夜は疲れ切った体をとにかく休めることに専念しないと、次の日活動できないんです。私は忙しい時ほど朝型にしたほうが調子が良い、ということを経験から学んだので、なるべく10時から11時くらいには寝て、朝早起きするように心がけています。寝る前にはゆっくり湯船につかって体を深部からちゃんと温めて、ストレッチをして、水を飲んで眠るというリズムですね。
展示の前などはどうしても制作に時間を当てたくなり、睡眠時間を削ってまでも制作時間を増やしたいと思ったりもするのですが、実際にそういうリズムでやると、頑張ってる!という自己満足にはなるのですが、結局はパフォーマンスが落ちてるというか、集中力も続かないですし、体も辛くなるだけなんですよね。木こりスタイルというか、朝ちゃんと起きて、お昼はお昼の時間にとって、15時ぐらいに1回おやつ休憩をとって、お腹が空いたら夕ご飯を食べて、夜はお風呂に入って早めに就寝する、というように昔ながらの農家さんの生活ってよくできたリズムなんだなと思います。
運動面でもラジオ体操第1と第2を音楽をかけて、本気で毎日やっています。彫刻ってチェーンソーとかノミを使う作業では体の内側に力が向かっていってしまうので、ラジオ体操のように外側に大きく伸びる運動がとても良いんです。
編集部:
そういったリズムは昔から大切にされていたんですか?
髙山さん:
私は、忙しい時の方が健康な気がしています。ちゃんと体を労ってあげないと明日頑張れないので、明日のためにやっとかないと!みたいな感じで制作するための体作りということをすごく意識していると思います。そのように意識するようになったのは、プロとしてアーティストになってからかなと思いますね。作品を依頼していただくことも多くなってきた中で、意識が変わってきたのかもしれません。
学生の頃は、作品提出や講評に合わせて制作をしていたんですが、あまり責任というものはないんですよね。作りが甘くても納得いかなくても、人には迷惑がかからないというか、自分だけの問題で済んでしまうので。でも今は、作品を依頼いただいたり、誰かのために作ったり、搬入の日が限られていたりなど、自分だけの都合や状況では決められないことも多いですし、自分の体に何かあったら本当に大問題になってしまいますから。
人間界と自然界を行き来する感覚。

編集部:
食事・睡眠・運動のリズムが今の作品作りへと繋がっているんですね。髙山さんの中で、これまでで特に印象に残っている制作体験を教えていただけますか?
髙山さん:
大学院生の時に山の中にある、生えているままの木を使って制作をする機会に恵まれました。地方に滞在して地元の人と交流しながら、太陽が上がったら起きて、作業して、ご飯をご馳走になって、夜になったら疲れて寝る、という1日の流れの中で制作していました。辛さもあるけど、自然や土地の環境に左右されている感覚がとても心地良かったですね。
作品は木の生えている自然の中で、その場にあるものだけで作りました。木屑もそのまま全部土に落としたままにして。その作品は今もそのまま置いてあるのですが、コケが生えたり、虫が卵を生んでいたりと、自然に馴染んでいく変化が面白いです。この作品を作った時に「無理していないな、自然だな」という感触があったんです。自然を自分の方に引き寄せすぎず作品にできたという感じがとても心地よくて。この作品制作での経験はとても貴重なものでした。
編集部:
これからはどのような作品づくりをしていこうと思っていますか?
髙山さん:
これまでは制作の中で「言葉にできないもの」と対峙することが多かったのですが、最近は様々な人と関わる機会が多くなったので、違う分野の方とコミュニケーションをとることに興味を持ち始めました。会話や文字による「説明の多い人間の世界」と、「言葉にできない自然の世界」を行ったり来たりしながら制作するのが面白いですね。どちらも好きなので行き来していたいんです。今、文字や絵文字に興味があるのもそういった流れからかもしれません。感覚を言語化する過程がとても面白いなと。今後も人間と自然の間を行き来しながら作品を作っていきたいと思います。
編集部:
本日はありがとうございました。これからの作品もとても楽しみにしています。

information
有楽町ウィンドウギャラリー 2025
●会期:2025年2月28日(金) - 3月23日(日)
●会場:丸の内仲通り付近の商業店舗8軒(東京都千代田区有楽町1丁目、丸の内1~3丁目)
以下、店舗内で髙山さんの作品が展示されます。
HIGASHIYA man marunouchi × 髙山瑞
https://windowgallery.studio.site/ywg2025/artist/7
〒100-0005 東京都千代田区丸の内 1-4-5 三菱UFJ信託銀行本店ビル 1F
●参加店舗:Allbirds、ザ・コンランショップ 丸の内店、TexturA、DEAN & DELUCAカフェ丸の内 、NUMBER SUGAR丸の内店、Paraboot丸の内店、HIGASHIYA man 丸の内、ラコタハウス丸の内店
●参加アーティスト:アレックス・ダッジ、今井みのり、岩崎貴宏、遠藤薫、髙山瑞、玉山拓郎、守山友一朗、山本万菜
https://windowgallery.studio.site
髙山瑞 個展「ぽろぽろしたたる」
●会期: 2025年4月4日(金) - 4月20日(日)
●会場:文ヶ学
〒870-0822 大分県大分市大道町2丁目6番26号 N2G1F
https://www.instagram.com/bunkagaku?igsh=cHR2YXN6eXIyamEz